書評〜民の見えざる手〜デフレ不況時代の新国富論
- 作者: 大前研一
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/07/14
- メディア: ハードカバー
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大前研一さんの本である。複数の雑誌に掲載された記事を集めたとあって、書き下ろしが加わったとは言え、やや迫力に欠ける感があった。さすがにトップ・コンサルタントだけあって、今の時代に生き抜く企業の着眼点や人材の育成法については、その知識と見識に勉強になるところが多いが、本書が国富論として展開している考えとのつながりが見えにくい。
国富のためには、個人が生活を楽しむこととあって、(欧米と比べて)老後のライフプランがない傾向にある50代以上の世代の消費喚起を論じている。ただ、語りかける相手がまさにその世代の人たちなので、ではどうすれば良いかと言うと、まさにその世代の人たちが自ら考えて行動すべきと。そして、消費をするとなると郵貯や銀行預金が取り崩されて、国家の安心料となっている国債の買い手が減る皮肉になるので、誰かが大号令をかけるのではなく、早い者勝ちで行動すべきとか。例えば、今は田舎の土地建物が安いから、早く買った人が安い値段で手に入れられるし、もし国債の買い手が減って、信用リスクが上がって換金リスクが上がることが起こると、その前に逃げちゃうという意味でも早い者勝ち。もっともだとは思うけれど、その成否は読者の行動に委ねられているから、それより若い世代の自分などは(今は)どうすることもできない。
民に委ねられたミクロの行動の積み重ねが世界を変える。だからこそ「民の見えざる手」というタイトルな訳だ。なんとも大胆な本だなあと思った次第である。
しかし、逆に読むと、それだけ今の政府の政策には意味がないということである。税制しかり、成長戦略しかり、教育しかり・・・。この辺りの説明はとても分かりやすい。
「景気循環ではもはや今の経済は語れない」という書き出しは、昨日の記事でも書いたように大いに共感できる。既に案内したように、聴こえがもっともな処方箋は「せいぜい個人で勝手にやってよ」とも聴こえなくもないため、やや消化不良になるが、現状をさらっと把握するのに読みやすい本だ。
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