ほどよい入門書、書評〜貧困削減と世界銀行

マイクロ・ファイナンスに興味があるのですが、もっと大きなレベルでは世界銀行(世銀)があるなあ、と思ってこの本(2004年発行)に出会いました。

貧困国の経済をよくするにはどうしたらよいか?先進国が行う行動は、開発援助(融資)なのですが、その際に「自由経済」を求めていくのか、それとも政府によるコントロールである「産業政策」を促すのか、という問題があります。成長が一番よい薬で、それを自由(民間)に任せるというのが自由経済ですね。さらに、援助する国において、国民の間に「公平感」を重視するのか、それとも「競争」を重視するのか、という問題があります。これは、今の日本でも、次元は違うけれど、同じような議論が行われますね。

本書は、9.11までは「自由経済、競争重視」だった世銀が、「自由経済、競争+公平のバランス」に態度を変えた、という話を含め、どうしたら貧困国の経済をよくできるか、について筆者の意見も含めて世銀の対応を案内しています。

僕は、世銀については本書ではじめて触れるので、たいしたコメントはできません。しかし、米国と世銀との深い関係には気になる点がたくさんあります。それは、米国が世銀の最大の出資国であり、米国が総裁を決め、おそらく米国が世銀による支援先を自由化する過程で、最も多くの便益を得ると想像できることです。

だからこそ、「自由経済」が最も好まれた政策だったのでしょうし、9.11までは「競争重視」だったのでしょう。そのやり方については、批判があるようなので、今後はそうした批判についても学んでいきたいと思いました。

そうした批判について、本書はその存在についてさらっと触れていますが、内容については書いていません。そういう意味で、本書は、特別なメッセージや提言がある訳ではなく、貧困国の経済発展ならびに貧困解決にあたって考える視点にはどんなものがあって、これまで世銀や米国がどのように対応してきたかを、知る上での入門書として位置づけるのが妥当でしょう。

貧困問題を見ていく場合、国家間の格差と、国の中での格差の拡がりを見るという視点があって、さらに既得権益を持った人たちの腐敗の存在があって、かなり考えさせられます。

中国では、特に地方政府に腐敗が激しい、という話を聞きますが、今では新興国と呼ばれる中国でさえ、腐敗が存在し、国民の格差は依然大きなままです。自由経済の代表選手である「投資」では施せない部分が改善されるかどうかで、国としての経済的な魅力はさらに増すでしょうし、当然に社会的な価値も上がるのでしょう。貧困問題に限らず、それらの社会厚生(ここでは社会全体の充足度とします)に関わる問題が、今すぐできる投資の奥に常にある訳です。これは、少なからず今の日本でさえ存在する問題でもありますね。

ちなみに、マイクロ・ファイナンスとの関連については、本書からは得られませんでした。

貧困削減と世界銀行―9月11日米国多発テロ後の大変化 (アジアを見る眼)

貧困削減と世界銀行―9月11日米国多発テロ後の大変化 (アジアを見る眼)


【編集後記】
先日、自動車免許の更新に行ってきました。あの「事業仕訳」で話題となった、「教則本」や「安全のしおり」を合計で3冊もらいました。はじめから「要りません」と言うつもりだったのに、「講習で使いますから」ということで全員配布でした。
講習そのものは的を絞った解説で、すばらしかった。しかし、その成果もあって使われた資料はたった数ページ。手元に保存するほど複雑な内容でもないから、家に帰って早速資源ゴミ行きでした。あの内容だったら、「うちわ」にでも書いてくれれば良いのに。秋〜春はポケットティッシュかな?




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