捨てることの効用

僕の勤める会社は金融業に属し、仕事のスピードは速い。製造業や他のサービス業と比べたことはないので、どの程度速いのか、そもそも速いのかは分かり兼ねるが、大規模な設備を必要としない業界ゆえに、スピード勝負になるというのは理屈で説明できるだろう。

会社は外資系。本社は、アメリカ西海岸にあるので、シリコンバレーのイメージに偏っている感は否めないが、仕事のスピードは同業の中でも速いという印象である。アメリカ人の同僚と話すと、カリフォルニア州はよりオープン・カルチャーであって、より革新的な民主党支持である傾向からも、ハズれた意見ではないようだ。そうした土地の文化に加え、会社は極めて高いレベルでイノベーションを推進する。異なる文化、専門性、経験の人たちを組み合わせるのを好むため、いろいろな意見が出てきて、実際に良いものを試そうとする意欲に富んでいる。

全てのアイデアを試すことは困難でく、さらに試すことになったアイデアを完璧にこなそうと思うと、その時点でチームのキャパシティを軽くオーバーしてしまう。こういう会社の強みは、100のものを100%の精度でこなすのではなく、140のものをまずは60%の精度でこなすことだと思う。

そうなると、「捨てる技術」が重要になってくる。ここで言う「捨てる技術」とは、案件の中から捨てることを意味するし、ある程度の精度まで試してみて暫定的な結論を出す、ことを意味する。性格的に、こうした進め方が合わない人もいるのだが、いろいろ試したり議論した結果、より良いものを選んでいこうという仕事の進め方は、悪い考えではないはずだ。

僕も、本性では精緻に物事を進める性格なので、そのやり方に慣れるまでは時間がかかった。しかし、理屈で理解してからは、受け容れられるようになった。

イデアの量を最初から制限するのは健康的ではないし、たくさん試してから選んでいくと、最終的に良いものとめぐり合う可能性が高い。そもそも、アイデアの多くは、少しでも調べてみたり、実際にやってみないとその効果は見えない。そうであれば、最初から選択肢を絞るよりも、統計学的なアプローチで割り切ってみる方が良いのかもしれない。

「捨てる技術」は、見方を変えれば「選択する技術」でもある、選択する技術の方が聞こえがいいし、おそらくそれがより効果的なのだと思うが、そうは言わない。なぜならば、一人の人間がこなす情報処理量には限りがあるのに、膨大な情報が集まってくるし、安価で利用可能な状態にある。

われわれの意識としては、「捨てる」ことに向けることによって、残ったものから選択することがやりやすくなったり、選択肢が多いことからくるストレスをリリースすることに、役立つのだろう。




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