書評〜会社は頭から腐る、現場と厳しさと人を知るということ


冨山和彦さんの「会社は頭から腐る」を読んだ。冨山さんは、産業再生機構のCOOを務めた人だ。彼の強いリーダーシップにより、困難と見られていた産業再生機構の運営は軌道に乗った。何かのセミナーでお話を聞いたことがあったが、彼の力強い言葉とはっきりした主張は、今でも強く印象に残っている。

この本は、産業再生機構で扱われた企業の例が書いてあるような生易しいものではなく、それよりも仕事の本質について考えさせられ、行動を促されるような本だ。経営やチームリーダーのような仕事に携わっている人のみならず、若くて勢いのある人にもお薦めしたい。

いつものように、気になるところは線を引き、折り目をつけて読み進めていたら折り目だらけになってしまった。最近の自分は、忙しいだけでなく、事業環境も厳しい中で、プレッシャーのかかる舵取りを何のガイドもない中で迫られ、また迫られる前に危険信号を察知して手を打ったりしていて、疲れ気味だったようだ。そんなとき、こうした力強い本を読むと、勇気をもらえる。

人は元来弱く、危機に直面したときに逃げたり、逃げ出したくなる。しかし、いかにそれに正面から向き合い、考え、自らの判断で実際に行動していくか、が重要なのだ。判断の過程で他人の意見に耳を傾けたり、組織による決定もあるだろう。しかし、自らのキャリアにおけるリスク回避や、プライドによって意思決定がなされると、本来の事業目的から脱線してしまう。ましてや、先送りはもってのほかだ。

要するに、自分にも人にも厳しくないと、本当の意味でのビジネスなどできないのだ。

「厳しさ」にまつわる話を1つ挙げたい。「厳しい」というのは、厳しくあるときに厳しいという意味なのだが、その時おり見せる「厳しさ」によって、後で人から「〇〇さんは厳しい」「こわい」という意見を人づてにもらうことがある。これだけで、以後マイルドに振舞ったり自制することもあるのだが、本当に厳しい判断や意見を言わないといけないときは、やはり言わないといけないのだろう。

判断を行うには、常に現場主義でいるということだ。やはり、事業の現場を見て、経験し、苦労していないと、何が問題なのかが見えにくい。それに、会社の大半は現場であり、現場の人のモチベーションを知らずにチームをまとめることなどできない。

冨山氏もこの本のなかで、産業再生機構を率いるときに、「働く人間のインセンティブをはっきりさせることだった」と振り返っているように、インセンティブをしっかりと見極めて、それに誘発されて行動が促されるような仕組み作りというのが重要だと思った。

このことはあたり前ではあるものの、あたり前すぎるためかリーダーシップやマネジメントの本にはあまり書いていない。僕は、今のチームにおいては、その現場で長く働いた上で昇進したから、メンバーのインセンティブをはっきりさせる感覚は持っていたつもりだ。しかし、仕事の環境は変わるし、新しくチームに入った人が持つインセンティブは違っているかもしれない、と思った。人々のインセンティブは、常にレビューすべきで、その感覚は常に磨いていくべきものなのだろう。

今、金融の世界ではなかなか厳しい状況が続いている。しかし、こういう時だからこそ、現場を見て、自分という人の弱さに向き合い、そして弱さに打ち勝つ判断と行動をしていく。今こそが、本当の意味での仕事力をつけるチャンスなんだと思う。



【編集後記】現場主義については、過去にも記事にしていますので、よかったらご参考にしてください。





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