小説のかたち

以前にも同じような話をした気もするのだが、家内と小説の好みについてあれこれ話していて思ったことがある。

つい最近読んだ小説に、取材をしっかりしてあって、ストーリーが面白く組み立てられていて、今この時代に生きている人ではないと書けないような内容のものがあった。自分と年齢も近いし、ストーリーは日常の悩みから事件性のものまでハプニングが散りばめられていて、それに対する主人公の考え方や感じ方にも共感を覚え、面白く読めるのだけれど、何か物足りない。

共通するであろうものに、テレビのドラマがある。次は何が起こるだろう、と考えるまではハラハラ、どきどきで、読み進めるうちに先を急ぐ気持ちが芽生え、あっという間に読んでしまう。しかし、どうも作家の意図や展開に乗せられてしまったようで、僕には良い心地がしなかった。

それだったら、もっと現実の世界に起きていることの方が興味があるし、効率的には意見を集められないかもしれないけれど、事件や事故の当事者の話を読んだり、あるいはそれを社会学や心理学などの側面から見た方がきっと面白い。

小説を読むという楽しみは、作者の意図が仮に分からなかったり、あるいは感性が自分と異なっているとしても、最終的には自分の感性や経験から照らして作者の書く情景を自分なりに描き直したり、主人公の心を読んだりするところにあると僕は思っている。なので、ある程度抽象的な方が想像力が働くし、実際僕らが日常過ごしていて一言で片付けられないもの、複雑な感情や感性、情景といったものを書き連ねてくれた方が良い。

そうなると、一瞬の出来事や感情を、まるで写真で切り取ったような感じで時間をかけて描写し、普段は時間の流れるままに過ごしてしまい、考えが及ばなかったことに思いを馳せることが小説の醍醐味なのではないか、と思う。読むという作業は、そうしたことに向いている。




こちらへも遊びに来て下さい。→金融の10番は日本人に任せろ!