豊かさとは何か
暉峻淑子(てるおかいつこ)さんの「豊かさとは何か」を読んだ。この本は、1989年の9月に新書で発売され、以後57刷を重ねている。(2007年11月発行分)
- 作者: 暉峻淑子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1989/09/20
- メディア: 新書
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1989年9月といえば、僕が新卒で会社を見つけるために就職活動をした頃だ。日本はバブルに沸き、就職市場は売り手優位で、企業も競って社員を雇用していた時分である。
それから20年。この本で挙げている「豊かさ」の条件を、もし多くの読者が支持していたとしても、日本という国はその本質において何も達成できていないと思う。
20年である。僕が仕事を始めた1990年は、豊かさという概念について考えることもなく、目の前にある仕事や機会に飛びついていった時で、社会についての心配が自分に戻ってくるなんて思いもよらなかった。20年もの歳を重ねた結果、そして日本という国が「経済的豊かさ」という意味において一つの象徴(*)を控えているときに、何も変わっていなかったというのは大変なショックである。
(*)GDPはまもなく中国に抜かれ、日本は米国、中国に次いで3位になる可能性が報道されている(本日付けの日経新聞)。
主張は分かりやすく、カネやモノを追求し続けた日本(とりわけ批判は政府と企業に向けられる)と、社会保障や住宅の整備、働く時間の抑制を通じ人権に配慮したドイツや他の欧州諸国との比較に始まる。私たち国民一人一人の心の問題とリンクさせながら、どちらがより人間の望む豊かさか・・・について述べられていく。
この本では、その問題に対する処方については一切書かれていない。政界と財界へ警鐘を鳴らすことを啓蒙するにとどまるから、読んでいくと暗くなってしまうことを覚悟願いたい。その上で、1989年にこの本が書かれたことを噛み締めながら、自分たちで何ができるか、(もちろん選挙にいって投票するということも含めて・・・)を考えていくことになる。しかし、相当大きなギャップ、長い距離があることに、途方もない虚脱感を感じずにはいられない。出来ることは一つ一つという精神性に立って行くのが精神衛生上良いであろう・・・。
労働の問題については、自分の仕事についての価値観、従業員という目線から、僕は幾度となくこの日記で書いている。ただし、まじめな、頑張りすぎる、自己犠牲を美徳とするような人の目線だということを断っておく。そういう人は日本人に少なくないと思うのだが・・・。
現実は悲しい。最初から日本の会社組織の中で、燃え尽きることなく、自分の興味と会社の方向のベクトルを合わせるのは、よほど会社が素晴らしいということがない限り、難しいだろう。
万人にはお勧めしないが、こういう考え方もある。
最初から理想を探すのも良いが、社会で力を付けさせてもらいながら、理想的な環境に自分を持っていく。日本の会社は、僕が経験した範囲での話だけれど、人が多い分、教育や経験を与えてくれる。長時間労働と労働時間に対する賃金が低いという問題があるが・・・。
世の中には、良い会社もたくさんある。「日本でいちばん大切にしたい会社」という本について書いた回。
どんな会社でどんな役割をするにしても、もし僕らが仕事をすることについての意味を考えることがあるならば、次のように考えることなのだろう。
「仕事って何のためにやっているのだろう、という話をしていた。自己実現のため、というのがとっさに浮かぶ答えだ。では自己実現ってなに?そもそも自分ってどんな存在で、何のために仕事しているのだろう?」
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