悩む力

悩む力 (集英社新書 444C)

悩む力 (集英社新書 444C)

2008年初版の姜尚中さんの「悩む力」を読んだ。政治学者でもある姜さんの著作は始めて読んだが、この本は政治という枠に関係なく、生きることに密に関わる幾つものテーマについて、姜さんの考えが披露されていく。

例えば「自我」「お金」「信仰」「愛」「生と死」など、いずれも答えのない、悩みどころのテーマが並ぶ。それぞれは生きることに関係するけれど、相互に影響しあう書き方ではないので、興味のあるところだけ読んでも面白い。

夏目漱石マックス・ウェーバーをヒントに・・・」というのがこの本の内容を面白くしている。僕は、大学生のときに漱石をひと通り読んだが、悩み多き主人公の姿、つまり漱石の思考の過程に、当時の自分の歩みや思考を重ねたり、比較を試みたので、漱石の著作の解釈が並ぶこの本は別の意味で飽きることがない。

加えて・・・

「信じること」について、「究極的には、『信じる』ということは、『何かを信じる』ということではなく、『自分を信じる』ということになると思います」という記述は、たまたま僕が今朝「そういうものだろう」と口に出していたことで、びっくりした。

僕は、宗教に触れた経験がなく、接し方も分からない。友人には信仰心の強い外国人がいて、それは珍しくも何でもないようだけれども、ふつう「信仰については話さない方がよい」と言われるから、そういう話をしたこともない。

一方で、宗教とりわけ仏教の教えについては、ビジネスでも引用することがあると最近になって気付いた。特に自分を律することや、周囲(他人)との関連性の中で自分を見つめ直すことなどは、人類が思考した蓄積が非常にありがたいヒントをくれるのだろう。

しかし、宗教との距離感がつかめないものだから、それこそ「悩んで」いた。これまで、自分という存在によってのみ、社会との関係性を定義しながら、物事を捉えてきたので、無理もないだろう。そこにいきなり「教え」が利用可能だとしても、それを積極的に見るか否か躊躇してしまう。

この本は、「信仰の覆いがはずされ、『個人』にすべての判断が託されてしまった近代以降」「何かを選択しようとするたびに、自我と向き合わねばならず」と自分たちが生きる現代と過去の違いを説明する。「自我を向きあう」ことは「自分を信じる」ことに他ならない。

最終的には、宗教を含む先人の知恵を自分が消化し、そこに自らの考えを整理し、「自らの生きる道」「人の道」を追究するので良いのだ、と思えたことが、僕には良かった。

信仰については、個人の自由ゆえにいろいろな考えがあると思う。もし、僕の考えが不愉快にさせることがあるならば、それも自由ゆえということでお許し願いたい。




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