経済財政報告(経済白書)を使った勉強法

内閣府が年に1回、経済財政報告(昔の経済白書)を出しています。書店で、綺麗な表紙付きの印刷物が買えますが、内閣府ネットで全文を読むこともできます。ファイルが分かれていて、面倒くさいけど・・・。

ここ10年ほど、資産運用の仕事をしてきましたが、経済白書ほど話題にならないものはありません、という印象です。2010年版を久しぶりに見ますと、あいかわらず図表が満載なのは良いし、20年くらい前と比べて内容も分かりやすく、分析手法もテクニックに凝ったものは減り、平易なものが主流になっていました。自戒ですが、駆け出しの調査マンだった僕は、経済白書の分析手法を意識したものです。テクニックに頼りすぎていたのが恥ずかしい・・・。

しかし、少し前から指摘されているように、経済白書は客観的な分析や表記が減り、政治色がかなり強くなっているのでは、という意見があります。今回の白書では、こども手当てや高校無料化が可処分所得を上げるだろうと書いてあって、そしてかなり前のページで、雇用者所得と消費には歴史的に正の関係があることを書いているので、あたかも現在の政策が効果的であるという印象を与えています。ずるいのは、効果的とは一言も言ってなくて、そのあたりに、担当官僚の苦労がうかがえたりします。

つまり、経済白書は注意をして読まないといけなくって、油断ができないから、格好の勉強法になると思ったのです。

計量経済的にも気になる記述があります。いくつかの分析で、重回帰分析を使って寄与度を示していますが、それがあたかも因果関係がある(A→B)ような印象を与える記述があります。回帰分析は、それ単独では因果関係を示すものではありません。例えば、C→A、C→Bのような事があって、A→Bという結果が数字で出ることがあります。便利な反面、危険な解釈も出来てしまうので、何故A→Bなのかを別の側面からも疑ってみることをおすすめします。白書の分析を全否定する意図はありませんが、安易な記述が読み心地を悪くしました。

白書それ自体の評価をしてみたいと思います。結局何が言いたいのかな〜、と思って405ページ以降の「むすび」を読んで思ったのは、先日公開された新成長戦略の方が資料としては面白かったなあ、という点です。つまり、白書ならではの提言は見られないし、データも主張も新しいと思えるものはない。白書の「むすび」は、政府としてどういう手が打てるかという書き方になっているのですが、「政府は民間より情報を多く持つわけではないので、市場で決まる以上に的確に潜在需要の所在を言い当てることはできない」と言っていて、規制のあり様について述べていく・・・。

であれば、いっそのこと政府の規制を産業毎に洗い直して、必要なものは改めていった方が、誰も読まない白書を書くよりも良いのではないでしょうか。白書では、最近話題の介護や環境など限られた産業について、潜在需要があるケーススタディを行っていますが、むしろ「政府が情報を持っていない」のなら、すべての業種に対してやっていく方が日本経済のためになります。まあ、省庁間の問題に発展するので、出来ないとは思いますが・・・。



【編集後記】
今日は、経済白書を読む予定はなく、本日付けの日経新聞経済教室について書こうと思っていました。日本に訪れる外国人の観光産業について、ちばぎん総研の額賀さんが面白い記事を書いていたからです。それによると、政府の目標は2020年に2500万人の外国人を迎えたい、とあるが1億人にしたらどうかというものです。ちなみに2008年の実績が約780万人ですから、2500万人でも3.2倍です。その2500万人の経済効果は、日本のGDPの約1%にしかならない、それは微妙ではないか?、というご意見です。

気になったので、今後の生産労働人口の減り方とGDPについて見よう〜と思って白書を開いたら、そうした記述は一切なく、デフレの背景や今後の懸念という文脈で、人口問題は触れられていなくってびっくりしたのです。先日読んだ「デフレの正体」を見てみよう〜。

いずれにしても外国人を誘致するとなると、国内だけでなく海外にもビジネス機会がありそうですね〜。外国語で発信することが、まずは必要です。それに、日本人の観光スタイルとは少し違うものが、外国人にはあるようです。

例えば、富士登山をする外国人が増えているそうです。外国人のスキー客はここ数年でかなり増えました。日本の自然、食べ物、鉄道網、安全は観光資源ですから、はとバスや京都に誘っておしまいではなく、いろいろな展開がありそうです。僕のマラソンコースである代々木公園も、外国人観光客が年々増えているのを実感します。海外の公園などに行くと、地元民に混じって観光客も多く見ます。彼ら彼女ら(例として北米、欧州の人)はランドマークを見るばかりではなく、思い思いの時間を過ごしてくつろぐスタイルがあるようです。日本も、そういうスペースをもっと作って、有効に活用すると良いと思います。



こちらへも遊びに来て下さい。→金融の10番は日本人に任せろ!