NHKスペシャルを見て 〜 中東の国家戦略から学ぶ

昨日も前回に続いてやっていました。今回のテーマは、灼熱アジア第2回、中東砂漠の富の争奪戦です。再放送は31日(火)の午前0:15から。

前回と同様に、技術力に優れた日本企業が、その先行者メリットと競争力を、どうやって国際社会で活かしていくかという視点で見ることもできますし、新興国の動向を知るという視点で見ることもできます。

僕が気になったのは、資本という力の差です。番組では、産油国が「ポストオイル(石油後)」の社会の到来を予測し、いち早くクリーン・エネルギーの開発に乗り出し、さらに国際的な議論の主導権を握ろうとする様子が詳しく取り上げられています。
例えば、UAEにはドバイと並ぶ首長国アブダビがあって、そこではマスダール・シティ計画というのが進んでいます。世界中のクリーン・エネルギー技術をそこに集めて、在来エネルギーに頼らない街を作ってしまおうという計画です。予算は2兆円。ドイツや日本などの先進国の企業がアブダビ詣でをしています。石油国家アブダビが、石油で得た巨額の資金を無駄に浪費するのではなく、国家として戦略的かつ積極的な投資を展開していると見ることができます。(資金の詳細な流れは番組では報告されませんでした。秘密主義のアブダビではそれを知るのは困難だと思いますが、国家が絡んでいると推測しています。)

この資本力と国家による戦略が、日本には欠けている部分です。資本については、日本以外の先進国も、金融危機後の景気低迷で枯渇している状態です。産油国に限らず、今経済に勢いがある国々が、先進国の民間企業を巻き込む形でイノベーションを興せば、新しい産業を産むという構図です。産業だけでなく、国際的なオピニオン・リーダーになることで、政治にも影響を及ぼすことになるのでしょう。例えばUAEは、米国との間で、既につばぜり合いを始めているようです。番組でもちらっと見ることができました。石油は、欧米の石油メジャーに主導権を握られてしまったのですから、今回はそれを許さないという意志が伝わってきます。

以前にエネルギー産業について調べた際に、新エネルギーは幾つもあるので、在来型エネルギーを含む相対価格でどの技術がはやるかが決まっていく、ことを見てきました。アブダビの発想は、発電については太陽光(アラビア半島からアフリカのモロッコにかけては、1日の日照が13時間もあり中国や日本の3倍以上もあります)に賭けているようでしたが、先に挙げた「新しい概念の街」を創って注目を集めることで、脱CO2すなわちエネルギーを効率的に使う技術を世界中から集めることを狙っています。その先には、街をショールームとして活用することで、全世界に輸出する狙いがあります。また、ヨーロッパに近いモロッコなどへの影響も深めて、ロシアにエネルギー依存をせざるを得ないEU諸国への輸出を狙っているようです。

日本には、資本がないと言いましたが、公共投資をこういう形で行うことで、民間の投資を集めるきっかけを作って欲しいものです。即効性のある景気対策にはなりませんが、長期の成長戦略のエンジンにはなるはずです。今さら、アブダビと同じことをやっても駄目なので、新たな投資テーマとその仕組みを考えないといけないですが、企業と人を集める工夫は間違いなく必要です。法人税減税だけでは足りません。

街を創るといった形式にこだわらなくても、何かのテーマで空間を作って国際的かつ商業的に活動する場合は、助成や低利融資をするのでも良いかもしれません。箱モノではなく、実際に実用している空間を見せるのです。日本の防犯や抗菌技術、浄水などは世界でもユニークではないでしょうか。個人的には、海洋エネルギーや地熱を使った省エネ住宅なども興味があります。高齢化は先進国間では待ったなしですから、高齢者に優しい街は試してもらいたいです。これだと、どこかの市区町村が先導できるチャンスもあります。
これらを「安全、清潔」というテーマと絡めて、日本をアピールしながら技術を売っていくのはどうでしょうか?安心を得るということは、人間の防衛本能に直結することです。経済的に豊かになっても、それは変わることはありません。やはり国家レベルの戦略が大事ということですね。「ものづくり」とか「技術立国」という戦略は、否定はしませんが、それらが意味することは曖昧だと思います。むしろモノを作っていれば良いという誤解を与えかねないので、もっと具体的かつ国際競争に勝てるための表現にする必要があります。海外から人が集まって、モノが売れるというのはそういうことだと思うのです。

国内事業者の参加を優先したいところですが、海外の事業者にも門を開かないと人は集まりません。イノベーションを促進するような場を作り、海外からも知能と人材を集めて、それを輸出するという発想です。もちろん、雇用対策も大事ですから、日本の企業が負けないような教育と指導が必要になってきます。これらの取り組みは、国の団体である「ナントカ協会」がリードするのではなくって、民間の起業家に運営を任せるべきだと思います。


【編集後記】
UAEアブダビは、2004〜2006年に年数回訪れた都市です。今回、一瞬の映像ですが、当時よりもさらに街並みが進化している様子がうかがえました。
有名なドバイとアブダビは、首長国が異なるため、飛行機などの交通の連絡は当時ありませんでした。(今は不明・・・。)日本からドバイはエミレーツ航空の直行便があり、アブダビまでは陸路です。予じめチャーターしたタクシーで、約2時間の高速ドライブ。メルセデスのタクシーの横に、労働者をたくさん乗せた、メーカー不明の古いバスが走っていました。
当時は金融危機前。原油価格も上昇中で、道路やオフィスビルなどのインフラ整備にお金をかけていた時期です。ドバイとアブダビの間は砂漠が続くのですが、アブダビの市内は意外にも芝生が多く、欧州からの観光客でにぎわい始めていたのを思い出します。


まだ暑い日が続いていますね。土曜日は朝の涼しいうちに庭仕事を済まそうと思ったはずが、8時前で既に暑さに参ってしまい、朝食前にガリガリ君を食べてしまいました。




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