金型2社の統合に思うこと

今日(2010/9/17付)の日経1面に、自動車用金型で国内2位と3位の会社を、政府主導で統合する、という記事があった。どこかで聞いた話と混じっているなあ、と思っていたら、以前に観たNスペだった。国内1位の会社がタイのサミットという会社の傘下に入ったのである。

ちなみに、タイの傘下に入ったのはオギハラ(群馬県太田市)だ。櫻井よしこさんのブログで詳しく書いてあるので、リンクを貼っておこう。今回の統合は、国内2位の富士テクニカ(静岡県清水市ジャスダック上場)と国内3位の宮津製作所(群馬県大泉町、未上場)である。

政府主導とあるのは、企業再生支援機構のことだが、債務超過に陥った宮津製作所に対して外資からの買収提案があったと記事は書いていて、技術の海外流出を防ぐ狙いがあるのではと見られている。

Nスペでも観たが、金型を作る技術はCADを駆使した設計力と、実際のプレスによって生じる機械工学的な歪みやずれの品質管理のようだ。実際には、さらに多くの技術が詰め込まれていると思うのだが、設計の一部がIT化されたことで、すりあわせ技術の出番が少しずつ減ってきて、海外勢の台頭を許したのではないか、と見ることもできる。

自動車の国内生産台数が減っている上に、自動車メーカーが金型生産を内製化したり、新興国メーカーのキャッチアップが進んでいたりするらしい。既にタイ傘下に入ったオギハラによって、技術が海外に散らばったという見方もある。本当に大変な時代になった。

日本の「ものづくり」伝統は守りたいが、ここでいう伝統とは技術を革新し続けるという意味で、「今回の統合で会社を大きくしただけでは不十分だ」と日経も論じていた。「ものづくり」という言葉には、郷愁を誘うかのごとく不思議な魅力を感じるが、もしかすると「伝統」という言葉にも同じような力がある気がしてならない。伝統を守ることと、ビジネスで結果を出すことは、必ずしも同じ方向とは限らない。

そもそも「ものづくり」伝統を陰で支えてきた企業系列が崩れたことが、事の発端であろう。仕事の出し手も、資本の出し手も、国内からいなくなって、外資傘下に入った結果として技術流出が進むのは、日本を応援する立場からは残念だ。もしかすると、アセンブラーであるメーカーが、系列を解消した時点で「ものづくり」の伝統は失われてしまったのかもしれない。

今回の統合劇、債務超過に陥った宮津製作所は未上場の会社なので、海外勢からの買収圧力に時間的猶予を保てたという見方もできようが、不特定多数の投資家から距離があったのは気になる。一般に、市場の投資家の方が厳しいだろうから、過去の経営判断に隙があった、ということはなかったか。

「ものづくり」に得意な会社の多くは、未上場の中小企業である、と察する。大きくすることは大事だが、時を同じく次の戦略を実行していかないといけない。「ものづくり」応援ファンドがあれば、個人投資家として応援したいが、投資の仕組みが備わっていない上に、未上場という経営の緩さが気になる。



【編集後記】たまたま「日本を応援」という主題に合致しますが、昨日は、応援している日本のジャズバンド「MUG(マグ)」さんのライブに行ってきました。MUGさんのアルバムは、全曲オリジナルで、曲の中では時折り斬新な試みをやっています。昨日は、ドラムの鷹家さんが話していたことが印象的でした。
「僕は作曲をするのですが、海外の海が見える綺麗なところに行っちゃうと、みんなと同じ曲しか書けないような気がするのです。なので、この曲は”近所”で書きました。」
その近所がどこなのかは教えてくれなかったが、なぜか新宿のような気がしました。
それはそうと、もともとスタジオワークなどで忙しい方なので、海外に行く暇もないのだとは思ったものの、「この人は真のクリエーターだなあ」と思った瞬間です。人と同じ事をやっていたら新しい事はできない、ですよね。




こちらへも遊びに来て下さい。→金融の10番は日本人に任せろ!