ハリウッド化している資産運用業

経済学者の池田信夫さんが、「ハリウッド化するIT産業」という記事を書いていて面白かった。

要約すると、米国のIT産業ではエンジニア集団をプロとして雇い、条件や環境を整えて、生産効率やイノベーションを興しやすくしているそうだ。一方で日本のIT産業では、ITゼネコンという大手ベンダーが受注し、仕様を決めて、下請けや孫請けに出していく。請け負った側は仕様が決まっているのでイノベーションは起こりにくいし、ITゼネコンには技術が蓄積しない。

なぜ、そういう構造になったかというと、雇用の流動性を妨げる規制であると述べているのだが、ここでの本題から反れるので、リンクを見て頂きたい。

この「ハリウッド型」チームモデルは、資産運用業界でも当てはまる。資産運用ビジネスは、大きく2つのタイプに分けられる。1つは仕様が決まっていて、仕様どおりに運用するやり方だ。インデックス運用が代表選手だろう。もう1つは、運用哲学や戦略に特徴があって、その仕様を世に問いながら、資金を集めて運用していくというやり方。アクティブ運用やテーマ型投信などがこれに当たる。

問題なのは、後者のタイプの運用組織論である。ITゼネコンとまではいかないが、例えば運用企画部などがテーマを決めて、自社内のシニア・ファンド・マネージャーからやはり自社内のジュニア・ファンド・マネージャーに請負いさせて、ファンドが運用されるというのは、多くの会社でもまだ存在するだろう。

そうでなければ、似たようなテーマの投信が、次から次へと出てくることにはならないはずだ。営業部隊は、お客さんのニーズに応えるのが仕事だが、資産運用ビジネスでは、他社の商品を卸すということは例外を除いてなかなか起きない。少し無理をしてでも、自社内で内製化する傾向がある。

例外というのは、例えば中国株に強い○△アセット・マネジメントに、箱貸しをするケースだ。日系に多いのだが、××会社の投信の広告を、小さい文字まで全て読むと、「運用は○△会社に再委託します」と書いていることがある。

運用業界では、このことを一任再委託と言う。お客さんから一任を受けた資産運用を第3者に再委託するのだから、違和感を感じる人も多いだろう。この場合、委託する側は、他社の優れたファンド・マネージャーを知っており、そのマネージャーが仕様どおりに運用することをモニターする能力があります、と言ってお客さんからお金を集める。実際に、そのスキルは特別なものが必要であることは否定しないし、お客さんが直接アクセスできない運用会社を使う場合が多いから、一定の意味はある。このメリットとデメリットは、別の機会に紹介できたらと思う。

話を戻して、「お客さんがこういうのを求めているから」とか「競合相手がこういうのを作ったから」と言って、仕様だけを決めて運用商品を作るのは危険を伴う。運用商品は、他者を真似ても、得られる収益を他者と分け合うことしかできない。それに他者を完全に真似ることも不可能だから、情報や能力に競争優位性がなければ、他者ほどに勝つのは難しい。

これにも例外があって、1つの投資テーマがブームになると、バブルが生まれることがある。短期的には、みんなが潤うが、バブルはいつか崩壊する。長期的には、やはり後から入った人が一番損をするのだ。

最近の日系運用会社は知らないが、欧米の運用会社では、既にハリウッド化した運用チームを創りあげている。仕様は上から降ってくるものではなく、ファンド・マネージャーが持つ情報や能力から生み出していくのだ。

ファンド・マネージャーの組織もフラットであり、そしてユニークな能力を持った専門家集団である。どうやら、洋の東西を問わず、そして業界を問わず、イノベーションが重要な業界では、そうした組織をいかに創り上げるかが、勝敗を分けるような気がしてならない。



【編集後記】シャープの電子端末が、発表されましたね。その名も「ガラパゴス」。賛否両論のこの名前、どう思いますか。僕は、1級のユーモアだと思って受け止めましたが、本物のガラパゴスはユニークなものが残って評価されているのに対し、シャープのガラパゴスは少なくとも日本国内で成功しないと、「ガラクタ」です。自ら、ハードルの高い名前を付けたものだなあ、と思います。
値段は、他社と同等を考えているらしい。それはちょっと高いな。日本独自の仕様があるところが心配でなりません。海外戦略はどうなっているのだろうか?




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