厳しい環境で求められることって?

厳しい経営環境の中で、仕事の焦点が短期的になるのはある程度いたしかたない。しかし、長期と短期の視点のバランスは大事。今売れるものだけを追い求めると、本当の顧客ニーズからいつの間にかかけ離れていた、ということは容易に起こりそうだ。

その一方で、今やらないといけないことに目を背けていたら、あっという間に市場から退出を求められることもある。今やるべきことを、相応の品質で、スピード感をもってやり遂げる。

このことは、不安やプレッシャーに悩んだ挙句思考停止に陥るのではなく、「常に体を動かし、今やることをやる、今やらせてもらえることをやっていく」、ことに他ならない。リーダーである上司の役割は、それを率先し、周囲を刺激し、組織が止まらないようにすることだ。

そうして、短期的な仕事や今やるべきことに焦点をあてながら、長期の投資を行っていく。それは人材への投資だ。人材への投資と言っても、研修に行かせたり、知識をやみくもに蓄えるような投資ではなく、今まさに眼の前に拡がっている危機、逆の言い方をすれば機会、をどう乗り越えるか伝えていくことだ。

具体的な戦術論もあるだろう。戦術論は多岐にわたるが、それぞれが独立していたり、特定の知識が必要だったりするので、個々に教えていくことが多い。

さらに効果があるのは、考え方や行動の仕方といったビジネス・スキルだと思う。部下が今の状況をどう考え、どう行動したらより良いかを一緒になって考えていく。「一緒になって考える」というのは、実は部下からの立場に立った言い方で、既に上司は考えをもっている。しかし、それを一から教えるのではなく、部下に質問し、今の問題をどう捉えるかを口に出させ、それに対してどう対処していくかを更なる質問で考えさせ口に出させる。人は、他人から言われたことに従うより、自分で発したことに責任を持って取り組む方が理解も行動も進むから、このやり方は非常に強力だ。

「どうやったらそんなこと(質問)がポンポン出るのですか?」と聞かれたことがあるが、それは経験でしかない。しかし、今日はこれを気づいてもらおう、と思うと、それほど多くの準備をしなくてもいつの間にかそういう方向に質問が向いていく。「はい」「いいえ」で答えられる質問を投げると、方向が出やすい。ある程度の方向がついたところで「なぜ」「どうやって」「では何をする」といった質問を重ねると、質問を受けた人は考えて話すから、次の質問が準備しやすい。

今は、部下との対話を増やし、そのうちの何割かはこうしたビジネス・コーチングに充てている。効果が出るのは少し先だとは思うけれど、一番重要な人材に対する投資がおろそかになってしまうと、組織は目先の仕事をこなすだけで終わってしまうので、重要な投資だと思ってやっている。この投資は、追加的な費用がかからない。社内の経営資源、すなわち上司の時間を幾らか配分するだけで、行うことができるのだ。




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