さくら

西加奈子さんの小説。

さくら

さくら

ストーリーについては僕などが論じるよりも、Amazonなどの書評を参考にして頂いた方が良いように思われるが、「さくら」は主人公が飼っている犬の名前である。小説はそのさくらが主役ではなく、完全な脇役に徹している。

しかし、さくらがいることで家族の変わらないものが描写されているようにも思え、そして何よりさくらは犬でしかないのに存在感がある。

これって実際に生まれて始めて犬を飼っている自分が感じたことに似ている。うちの犬はまだ生後6ヶ月で、これからどういうふうに関係を作っていくかは分からないけれど、既にその子はここにいるし、時折見せる仕草やアピールは存在感たっぷりだ。

世間では、よく「ペットに癒される」と言う。うちの場合もきっとそうなのだけれども、癒されると言った言葉よりは一緒に生活する、対話するという感覚に近い。

対話と言ってもうちの子は何も話さないけれど、犬にはしっかりとした感情があって、まるで話しているように感情が伝わることもあるし、何を言いたいのか分からないこともある。でも、人間同志だって何を言いたいのか分からないことがあるので、感情をストレートに表現する犬の気持ちは、自分たちの生活に教えてくれるものが多いし、それを見て微笑むことが多い。

感情の表現は、犬の場合、しっぽであり、鳴き声にもならないくらいの声であり、反応であり、目で人を追う視線だったり、足音の速さや強さだったり、鼻をすする音だったり、鼻息だったりする。こうしたディテールが組み合わさって表現するなんて、人間にはなかなかできないことだ。

話を戻すと、『さくら』の中には、そうした犬のたくさんの感情があって、それは自分の今の感性をくすぐるようだ。犬との生活にはいろいろな考えがあると思うが、さくらの主人公のお宅では、さくらはずっと愛情を注いでもらえているのは明らかだけれども、やはり人間の生活が変化することの方が多いため、どうすることができない、犬の立場ではどうすることができない、ことが多い。それでも、与えられた愛をそのまま返すあたりで、人間の方が気付いたり、変わらないものに目をやったりすることができるのだと思う。




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