お金の研究と教育

金融のお仕事をしていて、子供たちがわくわくする話や商品がないものか、と常々思う。映画の会社やお菓子の会社、鉄道や車などの産業であれば、子供が夢を持つような話や商品があるものである。最近では、ハイブリッド・カーによって地球に優しい車などと、ファンタジーではない現実的な夢への拡がりもある。金融では何ができるのだろうか?

金融は経済の潤滑油だから、他の産業を支えていればよろしい、という考えが基本にあるのだろうけれど、それにしても寂しい限りである。あきれてモノが言えないアヒルのコマーシャルが露出したり、お金について語りたがらない大人の社会というのは一体何なのだろう?それと関連することに、何故、金融教育は公の場で行われていないのだろうか?

山本一力さんがナビゲーターの『お金を使う人 お金に使われる人』(NPOロフィア・STPプロジェクト企画・編著)は、子供にお金をどう教えるか、またお金の持つ力を脳科学などの立場から分析した面白い試みの本である。

少し書評っぽく書くと、山本一力さんは専門家ではないので、ちょっとまとめが弱いかな・・・。しかし、各章に分かれた専門家へのインタビューは良い構成となっていて、それを読んだ僕らが感想をまとめれば、十分考えを巡らすことができるはず。

金融教育について言うと、お金の価値を知ること、お金には限りがあるので使い道に優先順位を持つこと、自分のできることで対価を得ること(仕事の基本的な性質)、スキルをアップして対価を大きくすること、などは小さいうちに教えることの意味を感じた。アメリカの金融教育(パーソナル・ファイナンス教育)の実例は興味深いし、金融教育は教育現場だけの話ではなく、特に家族を含めた家庭での教育が如何に大事かという点が発見だった。

今、僕が職業としてやっている金融の技術は、こうした土台の上にある。しかし、それを教えるとなると高度すぎるものとして位置づけられるのかもしれない。高校生などの年齢ともなると、なぜ銀行があるのか、なぜ投資があるのか、という教育が意味を持つかもしれず、それに貢献することはできると思う。一方で、小学生低学年への基礎教育は、もっと家庭レベルの、それこそ子供たちが小遣いをもらってお小遣い帳を管理して・・・、というところにある。

今の子供たちは大変らしい。僕らの世代は、両親が”豊かさ”を得るため厳しい時代を過ごしていたので、”我慢”ということを通じた金銭教育が自然と成り立ったが、今の親世代は金銭的に豊かな時代に育っているし、祖父母も時間とお金を持っているから、教え方が難しい上に分からないのでは、とこの本は言う。

ちなみに、以前に紹介したキャシー松井の『子供にマネーゲームを教えてはいけない』と一見矛盾するような感じがするのだが、「仕事って何?」という根っこの部分を教えるという点では見事に共通している。キャシー松井がアメリカで教育を受けたこと、家庭がそういう環境で価値観をしっかりもって教育にあたったこと、は日本の多くの家庭とは異なる部分があり、だからこそ日本でも各家庭が各々の仕事観や家庭の経済環境に合わせて、金融教育を施すことが大事なのだろう。

もう1つの僕の関心であるお金の持つ魔力は、脳科学の観点で池谷裕二さんが答えたインタビューに面白い話がたくさんあった。お金と同等に社会的地位や消費という行動が、脳を刺激し、より大きな刺激を得ようとする。過剰消費や過剰債務の話と関係するが、それだけでなく、働き過ぎやはやる向上心をコントロールできずに体調や家庭を崩すといったことともつながるのではないか。これは僕がいつかライフワークとしてやろうと思っていることに関係する話なので、実に面白かった。

しかし、この手の本は少なくって、「お金」というキーワードでは様々な本が存在するものの、まず探してもないだろうと思って書棚を眺めていたら、偶然にも目に飛び込んできた。まだ発行されたばかりの本である。

他に参考となるような本を知っている人がいたら、是非教えて下さい。




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