グローバルインバランス

グローバル・インバランスとは国際的な経常収支不均衡のこと。周知のとおり、米国は経常収支が赤字で、日本や中国は黒字。ところが、輸出国である日本や中国は、通貨を安く放置しておいた方が自国の輸出に都合がよいから、輸出で稼いだドルを自国通貨に換えずに米国債に投資し、いざとなったら為替市場でドル買いの為替介入をするというもの。日本が昔よく、円高不況を恐れてやっていたことですね。今は中国の時代です。

中国元の切り上げ幅とタイミングが今年の大きな関心事ですが、多くの人が予想するように、緩やかな切り上げが行われるとしたら経常収支不均衡(グローバル・インバランス)はまず解消されない。そこで、こうしたグローバル・インバランスは持続可能なのか、そしてそもそも機軸通貨とは何なのか、という疑問を持っていたらこの本に出会いました。

米国のメリットって何なのでしょうか?経常黒字国が何も言わず国債を買ってくれる訳ですから、金融と財政政策は緩め(金利は低め)に運営でき、その分実力以上の経済運営ができると言われています。お金が余ると、昔は設備投資に使われたが、最近では企業買収や不動産投資に向かうので、投資の質が問題視されます。

知りませんでしたが、海外では米国の不動産バブルはグローバル・インバランスのせいだという議論もあるらしいです。これは行き過ぎた議論だと僕も思う。

さて、議論は最近(2007年以降)グローバル・インバランスが是正されていることに注目し、ある日突然、そのインバランスが崩壊することはないのか、と。つまり、誰も米国債を買わなくなり、米国金利は急上昇、インフレが米国経済を直撃し、グローバルに不況になるというシナリオです。

グローバル・インバランス(IMF、World Economic Outlook 2010年4月より)

ここで米ドルが機軸通貨であり続けるかという疑問が出てきます。機軸通貨の定義はないし、その結果公式な認定も存在しないのですが、貿易の決済に最も使われている通貨、とこの本では言っています。昔は英ポンド、今は米ドルですね。現在の米国企業の競争力や、戦略のしたたかさを考えると、米国がその立場を中国などに譲ることは今のところ考えにくいと思います。

となると、ドルを持つことは今後も必要で、貿易やサービス構造の多様化に合わせて他の通貨を持つニーズが大きくなっていっても、ドルがポンドになる時代が来るのは、今は想像できません。つまり、米国の力が無視できない程度に維持され、経常収支の赤字がまずまずのレンジに収まっていれば、ある日突然米国債が暴落するというシナリオは、戦争などのよほどのことがない限りなさそうです。

しかし、無条件に、日本と米国が過去続けてきたグローバル・インバランスが続くと思うことには、リスクがあると思って良い。緩やかに変化する分にはまだ良いが、比較的多額の外貨準備を持つ他国が何かのきっかけで動くと、損失を回避する動きが加速して、このインバランスが突然崩壊するかもしれない。バブル崩壊とは違う例ですが、人間の心理を考えると同じメカニズムだと思います。

全く別の注意点は、このインバランスが再び拡大して、資産価格バブルが形成される場合です。国際収支統計は、不均衡の結果たまったお金がどこに投資されるかは教えてくれないので、環境を理解する程度にしか使えませんが、米国の金融財政が緩和気味に推移することには留意したいと思います。

グローバル・インバランス

グローバル・インバランス

グローバル・インバランスは、国際金融の世界ではたくさんのレポートが出ているようです。

この本は、訳本ゆえの独特の表現が多用されているので、じっくりと読まないといけない部分もありますが、ブレトンウッズ体制や機軸通貨がポンドからドルに替わったときの話など、金融史としても興味深い記述がたくさんあります。




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