世界経済が回復するなか、なぜ日本だけが取り残されるのか

著者は野口悠紀雄さん。ポイントを幾つかまとめてみると…。

  1. 外需依存の日本経済は、新興国よりも米国消費者への依存が高く、回復までには相当の時間がかかる → 住宅ローンを担保にバブルを形成した米国の消費は完全には戻らない。つまり輸出主導の景気回復は実現困難
  2. 新興国向けの輸出は、新興国の中間層の平均所得の低さから、廉価品にならざるを得ない。さらに、新興国企業との価格競争が待っているから、収益性が得られない → さらに日本人の賃金が下がることになる
  3. 自動車を中心とした産業構造は、日米ともに既に過去のものとなり、米国のIT産業に見るような創造的な商品やサービスが必要、そして内需に頼っていく必要がある → 政治、経団連重視の体制、企業の発想転換が必要
  4. 過去の円安誘導と金融緩和は、輸出産業を延命するという政策の域を出ない。結果として、諸外国と比べ収益性が低い、過剰設備を抱えた製造業を産んだ → 過剰設備を減らす補助と財政政策を
  5. 内需主導型の経済に移行するためには、産業政策に加え、既に巨額の所得収支を計上している対外資産の運用を効果的にする必要 → 資産の運用力向上が課題
  6. バラマキ景気対策は雇用も産業も産み出していないどころか、消費にも回っていない → 介護などの人手が足りない産業への補助など、最終的に雇用に結びつく使い方をすべき

企業が、そして経済が発展するには「イノベーションが必要」という論には反対はないと思いますが、そのイノベーションは日本からは出ていないのではないか?という指摘が根底にはあるようです。勿論、青色LEDなどの良い例はある。けれども、日本のGDP、ピーク時では年率で566兆円(2008年1-3月期)の経済全体で物事を見るならば、今の多くの大企業や政策がそうした結果を出せていない、ことになります。

既に工業化の成長期に入っている中国などを見れば、日本の製造業がどこで付加価値を出さないと勝てないか、が想像されてくる。依然として、米国の平均的な所得水準は、しばらくの間は中国やインドと比べて高いので、日本や欧州を含めた現先進国経済の消費には期待がかかる。しかし、米国の住宅バブルのような景気過熱は起こらないだろうから、今ある過剰設備を償却しながら、新たな成長神話を作っていかないといけないというのが、日本の製造業の置かれた立場なのだろう。

著者は、企業幹部や政府首脳に、従来型の輸出主導の産業構造を続ける虚しさを説いているようである。それは、輸出企業(大企業)を延命して、経済統計をよく見せても、実数ベースのGDPの回復にはほど遠いし、経済政策は一部の産業だけを優遇しても効果が出ないから、雇用を促進できる財政政策に予算を回せと言う。

これまでは「ものづくりは日本のお家芸」「技術力は日本が優れている」という言葉を信じてきたが、それは事実としてそうなのだけれども、果たして戦略的に正しい方向を向いているか、とか、日本全体を見た場合により正しい政策に導かれているか、という点で既に油断のならない状況にあることを痛感した。

また、米英が金融業で収支を組み立てようとした戦略も、金融危機という結果を招いてしまったものの、グローバル化新興国が台頭する世界の中では理解できる動きである。政策は国レベルになることが多いから、こうした国ごとの政策や戦略の差をおさえておくことは重要である。

資産運用では、一時的だが、インデックス運用に受難の時代が訪れるかもしれない。一時的というのは、時間の経過とともにインデックスが自動的に勝者へのウェイトを高めるので、環境に上手く適応できた企業への持分を株価を介して増やす結果、投資の成果は最終的に得られるのだが、その効果が出るまでは時間がかかるかもしれない、ということだ。

もっとも、常勝できるアクティブ運用が出てこなければ、「敗者のゲーム」によりインデックス運用が勝る。インデックス運用の利点は、構造変化でさえも考える必要はなく、ひたすら果実が実るのを待つということでもある。

最悪シナリオは、多くの日本株が構造変化に対応できず、日本株インデックスそのものが沈んでしまうことだ。こうしたことがないよう、国別配分には神経質になっておきたい。




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