中国黒洞(ブラックホール)が世界をのみ込む

中国に関連する本は、まだ多くは読めていないけれど、本書はなかなか参考になった。中国人である著者は1984年から日本に来ており、両国を見てきた視点と、中国内部についての詳しい洞察の組み合わせが良いのだろう。中国関連の本を読み進めるうちに、本書の評価も高くなっていくような気がする。

中国が抱える社会問題、政治の歴史と制度の限界、拡大する経済力と個人の生活向上、などはいろいろなところで既に報じられている内容だ。しかし、それらを網羅し、関連する事例やデータを提示しているから、本書によって整理される知識は多いだろう。

読み終えての感想は、経済に限ってみても、中国関連の話題は多岐にわたるということだ。1)消費市場としての中国、2)世界の工場としての中国、3)環境対策など成熟化に向かう中国、4)世界そしてアジア圏の中で存在を高める中国、5)資本主義を謳歌する中間層以上の存在、6)貧困層すなわち格差の問題、7)高齢化に突き進む中国、8)医療や社会保障制度、などだろうか。

グローバル化、IT化が進んだ世の中で、これだけ大きな国が高度な成長を行っているということは、世界的な経済実験に値すると思う。いみじくも同時期に、世界の消費を牽引してきた米国は、自国の息切れと同時にその役割の一部を中国にゆずることになるだろう。

加えて、高齢化が急速に進んでいるということは、いま予見されている将来の出来事でさえ、その前提が急速に変化し得るということだ。これも世界に類をみない実験となることだろう。

著者の指摘のとおり、米国への輸出に依存してきた日本、そして「中国脅威論」というマイナス思考に陥りがちな日本は戦略やメンタルを変える必要がある。中国が大きくなって、競争力もつけてくるというのは、既に予測されている事実だ。事実を受け容れ、協力するところと、独自性や希少性によって競争するところは、はっきりしないといけない。

中国の人はよくアグレッシブだと言われる。僕の友人・知人たちを見ても、その通りだと思う。となると、なにも米国と競争や喧嘩をしなくても、米国が担っている役割の一部は中国によって支えられることになっていくのではないか。昨日報道された元切り上げを受け、今までドル建てで決済していた貿易を元建てにする動きもあると聞いた。そういう変化の中で、中国というグローバル経済圏(の一部ではあるが・・・)でうまくやっていける会社と、そうでない会社の差はますます大きくなっていくと思われる。




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