欧州迷走

欧州迷走

欧州迷走

出版は2009年12月。ギリシャ問題が明るみに出て、市場の注目を浴びてきたのが、同じ年の10月から12月にかけてだったから、この本ではまだギリシャ財政問題については触れていない。

欧州迷走というタイトルではあるが、もともと通貨統合前から特にドイツとフランスでは政策志向が異なっていたわけで、今さら迷走という響きに驚きは感じない。本書では、そのいきさつを2008年の金融危機への対応を通じて説明してくれる。米英との違いも際立たせて説明してくれるため、実に分かりやすい。

そもそも通貨ならびに金融政策は統一されていても、財政政策は各国独立なので、景気の良いときは目をつぶれる問題でも、景気の悪いときはそうではなくなる、というのはいろいろなところで言われていることだ。本書でいくつかの国を観ていくと、経済構造が違う、成長産業が違う、社会保障が違う、住宅制度が違う、国民性が違う、政治・歴史が違う、ことが整理され、欧州は迷走せざるを得ないような構造になっている。

話は反れるが、日本だけを見ても、さまざまな利害関係者や不十分な議論や政策決定によって迷走するのである。欧州各国についても、さらにミクロに見ていくともっと問題があるのだろうが、迷走コストというのを払いながら、それを現実のものとして受け入れ、その上で何ができるかを論じることの方が生産的になるはずである。

本書は欧州中央銀行(ECB)やEUへの政策提言はないが、現状を知る、背景を知るための記述に富んでいる。「日本への示唆と教訓」という節も各章に設けられていて、単なる対岸の火事に済ませない工夫も、読み進めていくうえでよい。

日本はドイツと似ている面が多く、輸出依存ゆえに消費低迷による影響を受けやすい。欧州の工業国が既に東欧などの新興国を垂直分業によって取り込んできた歴史と今後の動向は、日本の今後を見ていくにあたって大いに参考になる。

製造業が奮わないときに、金融を含めた他の作業が受け皿にならない点も日本に似ている。今の日本において、新しい成長に寄与する産業政策がいかに重要であるかを示す例であると言えよう。

日本に育ち、居住していると、「ものづくり大国」「熟練工の匠」「製造業は付加価値を産む」という言葉が飛び交い、製造することを”実力”以上に評価、美化する傾向にあると思う。製造することの大切さに対しては異論はないものの、作ることは付加価値を産むことであり、それは絶えず技術的革新(イノベーション)を伴って世界の(潜在)需要に応えていかないとならない。もっと正確に言うと、需要を掘り起こすくらいの革新でなければならない。

一方で、米英や欧州諸国を見ていくと、金融が一つの産業として育ち、経常収支の赤字を埋めるまでに発展している。金融がすべて、と言うつもりはないし、金融も大きく間違えることが今後もあるだろうから、過度に金融に頼るべきではないと思うが、「製造することが我々のアイデンティティだ」的な宣伝はそろそろやめ、これからの世代の人を洗脳しないように育てていきたいと思ったのである。




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