書評〜米中逆転

「米中の逆転」というタイトルですが、著者の主張は「逆転」ではなくって、英米一極から多極化に向かう点にあります。過剰宣伝のタイトルには最近すっかり驚かなくなりました。

僕は、この本をどこかの書評で知って、中身を見ずに買ったのですが、米ドル機軸の経済体制から他通貨による体制に変わっていく本だとばかり思い込んでいたら、実は国際政治の本でした。「誰々より聞いた話」や「著者の推測では・・・」という話が多いので、どこまで信じるかは読み手次第でしょう。辻褄が合うように聞こえる話もあれば、「?」という部分もあったので、何とも言えない読後感です。しかし、国際政治を「事実」や「データ」の裏付けがある話に限ると、報道の域を出ないでしょうから、著者の書き方について批判しようとは思いません。面白い見方も多かったので、740円払ったのは悪くなかったかな。

このサイトは金融について考えることが多いので、書評から少し反れますが、そちらについて書いてみます。米国の財政赤字リーマンショック後の財政政策によってさらに多額になったのと、足元は景気対策によって持ち直したかに見える景気も、期限付きの対策が切れてくるので、年後半には息切れするといわれています。

米ドルの覇権がすぐには落ちることはないでしょうが、こうした変化が突然訪れるというシナリオには備えておかないといけないのかもしれません。さらに、世界の消費を牽引するのは、中国が本格的な高齢化社会を迎えるまでのしばしの間は、中国をはじめとする新興国になるでしょうから、いきなりのショックがいつ訪れるかという話とは別に、通貨や経済圏の多極化はゆっくりと、しかし確実に進んでいくものと思われます。

人民元の為替切り上げが、対ドルだけで行われるのではなくって、対通貨バスケットで行われているのは非常に納得感があります。米ドル単独覇権の後の世界を、意識しながら物事に触れていくことの重さが身に染みます。

金融の技術や産業としての成熟度を考えると、金融・資本収支で稼ぐ米英の強さは、決済通貨としてのドルのお疲れ度とは別に、続くものと思われます。伝統的に、自国投資へのバイアスが強い米国が、この変化の中にあって物事のとらえ方をどう変えてくるかについては、非常に興味があります。例えば、いち早く多極化する通貨への配分を増やしたり、自国投資よりも海外投資の比率を高めたり・・・。海外資本を流入させる資本市場規制の緩和も、銀行規制が強化されるのとは対照的に、積極化させるかもしれません。

よくよく考えてみると、米国の金融規制は、今般のヘッジファンド規制くらいが最近の変化で、投資においては会計基準の国際化を除いては、あまり変化がないという印象です。すると、民間がイノベーションという形で進化することが変化になるわけですが、証券化商品や格付け機関など、最近の商品は投資家としてリスクを取ることよりもリスクを切り分けて転売するというもので、金融の本質を伸ばしたものとは思えません。しかし、それに懲りた業界は、世界の流れを再度認識して、何らかのイノベーションを生むことが期待されます。

米国は国境を越えて新しい人材と考えを取り入れていくので、米国企業すなわち米国資本の強さは、しばらくの間続くでしょう。そうした強みを、新興国の中で、あるいは新興国との関係性の中で、どのように展開していくかが興味のある部分です。もちろん、グローバルで動く人材、そして自分自身にも機会があり希望がもてるところです。




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