書評〜ゼロ金利との闘い

2005年刊。本棚に飾ったままになっていました。

なぜ今読んだのかと言うと、少し前に「インフレ・ターゲット(例えば年2%の上昇)を掲げれば、実際にインフレが起きてデフレが解消する」というリフレ論に出くわしたときに、「おやっ?」と思ったため、いろいろと徘徊しているうちに、家の書棚にあったこの本に行き着いたという訳です。

著者の植田和男さんは経済学者ですが、98年から2005年まで日銀の政策委員会の審議委員を務めた方です。当時のゼロ金利政策量的緩和政策に至る経過、そして「時間軸政策」と言われる「ゼロ金利をしばらく続けますよ〜」というアナウンスメント(期待形成)効果について詳しく書いてあります。

植田氏もはっきり書いていますが、「時間軸政策はクルーグマンが提唱した量的緩和策と結果的には同じ結論だった」とし、しかしながら、当初からそれを意識したものでも、また特効薬的な政策として頼った訳でもないことに言及している。そもそも、量的緩和策が単独で効果があるとは考えておらず、景気回復や財政からの刺激と相乗して、効果が出るものと考えていたそうです。

この点こそが、リフレ論者が拠り所とするクルーグマン量的緩和策の弱点であり、インフレ・ターゲット論だけが万能な金融政策であるかのように唱える人や政党の意見に「おやっ?」と感じてしまうところです。

クルーグマンと日本のリフレ論者については、元NHKで経済学者の池田信夫氏が以前に書いていて、その毒っぽさに対する好き嫌いが分かれるようですが、わかりやすかったのでリンクします。

なぜデフレが起こったか、そして金融政策がデフレに有効ではなかったかについての分析もあり、為になりますが、98年から2005年当時と足元で持続しているデフレについては、背景が既に変わっているような気がします。

そもそも98年当時の金融政策は、経済の下支えという目的の他に、不良債権で痛んだ金融機関の問題(金融システムの問題)を和らげるという大きな目的がありました。金融システムへの処方なしには実体経済の回復はないという時代だったのです。また著者は、デフレは債務者(借金をする人)にとってマイナス(借金の負担が実質的にどんどん膨らむ・・・)であり、借金をする人(特に企業)が支出する傾向にあるときは経済にマイナス、そして債務者への貸し出しを渋る銀行が増えてやはり経済がマイナスと言っています。円高が物価を下げた面も指摘していますが、総じて国内要因が中心に論じられています。

本書が出された2005年から4年しか経っていないのに、製造業の国際競争や社会のIT化が物価の下落と給与の伸び悩みを引き起こし、高齢化や先行きに対する不安が重なって、消費が長らく低迷するというデフレがはっきりしてきました。国際化と効率化と高齢化の3つのKが、今のデフレを創っていると思われます。

金融政策も日銀の役割も重要であることには、昔も今も変わりないですが、金融政策だけでは現状は変わらないことを示しているのではないでしょうか。

ゼロ金利との闘い―日銀の金融政策を総括する

ゼロ金利との闘い―日銀の金融政策を総括する




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