書評〜日本の成長戦略

日本の成長戦略

日本の成長戦略

コンサルティング・ファームをフィールドとする堀さんゆえに、提言が具体的で面白かった。著者の商売では、企業を支える立場にあるので、企業の海外進出や中国企業による顧客企業の買収など事例について、現実的な理解を示されるが、望むべくは日本国内で雇用を伸ばし、輸出では独自の商品で勝負をし、人材の質では海外から一目置かれるようになるべきだ、という非常に的を得た内容だ。

成長戦略を語る前に、何のために成長すべきか、そしてどんな社会をめざすのか、という視点がはっきりとしている。堀氏は、結果平等ではなく機会平等の社会を目指すべきと言う。そのための教育改革、税制改革、社会保障等の考えを述べ、ご本人も「過激な物言い」と言っていたが、筋が通っている。つまり、この本は、向こう5年や10年の、経済の成長戦略を述べているだけではなく、20年から30年先までの、日本の立ち位置や日本人の競争力向上について、書いている。

この本は現状に対する批判だけでなく、対案としての提言に溢れている。「過激な政策」に対して共感できるかどうか、実行可能かどうかは、残念ながら相当に距離があるだろう。しかし、こうした過激な案に対して考えていくプロセスこそが重要なのではないか、と思える本である。

政治家や官僚、マスコミ、教育関係者にとっては、耳を塞ぎたくなる話ばかりだろう。しかし、よく陥りがちなこの手の提言本にない雰囲気を本書は持っている。堀さんは、決して自分の知識を自慢したい訳でもないし、自論を正当化するために酷い言い方で現状を批判するばかりでもない、と僕は見た。

問題は、こうした提言そのものに限らず、現在の日本で何かを改革していくにあたり、僕らが何を行えるかということだ。勿論、政治家や専門家、マスコミを見る目を養い、投票行動を通じて日本を導いていくという活動は、有権者であれば誰でもできる。しかし、それだけでは時間がかかりすぎる。残念ながら、これに対する答えを自分は持ち合わせていない。「考えることを止まないこと」くらいしか、思いつかない。

成長には、経済的な成長と社会的な成長がある。経済的な成長については、一企業だけの成長を追求すると、海外で生産して海外で納税するという極端な話になりかねない。日本という経済圏や生活をするという生活圏をそこそこ豊かにするためには、日本経済全体の成長に貢献するという社会的な成長の視点が必要である。そのためには日本に住んで納税する人を雇用し、消費を増やしていくことも必要だ。海外投資家などが多い企業に勤めていると、ジレンマに陥る難しさがあるが、その問題を解いていかないといけない。

堀さんは、21世紀は「新たな国家間競争の時代」だと言う。僕も同感だ。イメージで言うと、20世紀末までが「グローバル化と企業間競争の時代」で、ここへ来てグローバル化がかなり進んでいろいろなものやプラットフォームが共通化された結果、企業や人が属する国の使いやすさが重要になってきたのだろう。グローバル化の皮肉としか言い様がない。ここで言う「国の使いやすさ」とは、税金だけの話ではない。社会インフラや言語、安全、規制、政府の後押しなど多様な要素から評価される。

かと言って、ナショナリズムに走るのは時代に逆行している。グローバル化の時計は逆には回らないだろう。そんな中で、日本がしたたかに成長し、日本人がグローバルで重宝されるという時代に向かっていかないとならない。




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