書評 〜 新興国発超優良企業

偶然だが、最近のブログ記事、タイにおけるグローバル・サプライ・チェーン中東における新エネルギー開発の主権台湾の投資力と日本企業の再生、と関係する話である。

本書は2008年10月に翻訳された。原著が出てから2年近く経っているので、現状はもっと進んでいることだろう。新興国の企業が、なぜ勢いがあるかを分析した本である。既に、多くの人が思っているように、「新興国の労働力が単に安い」という時代は終わった。低コストのメリットはまだ残っているものの、低コストだけでは説明できない有力な企業が新興国から生まれている。そうした企業の多くは、先進国で教育を受けたCEOが、グローバルに事業を展開し、先進国のグローバル企業と真っ向勝負している。

現代的な時代背景が大きく影響していると思った。ネットにより情報は誰でも入手・共有できる時代。国同士の争いも、政治的にも経済的にも緩やかになってきている。WTOによるのではなく、FTAによって2国間で関税障壁を取っ払っていく。
情報を一箇所に蓄え、慎重に勝負を展開するのではなく、情報を一気に利用する者が勝利を呼び寄せる世の中になっているのではないか。そうだとすると、本書が指摘するように、先進国の多くの企業「既存勢力」が中央集権的な組織運営を取るのに対し、新興国の企業「チャレンジャー」は、フラットな組織、適材を適所に配置するような分散型の生産体制、意思決定の仕組み、を持っていて、その方がスピードと柔軟性の両面で高い。

例えば、グローバルの本社が米国にあり、グローバルのやり方を本社が指示する、というのは典型的な「既存勢力」の経営スタイルだ。しかし、自動車で有名になったインドのタタ・グループなどは、さまざまな地域、国に機能と決定権限を分散している。

新興国という表現をする時点で、思考が硬直化されているとも本書は指摘する。「まだまだ追いつけないだろう」「これは教えてあげよう」、と。しかし、新興国の企業や人々は、キャッチアップに精力的であるだけでなく、既に既存の企業を上回る数字やイノベーションを上げている例が幾つも紹介される。さらに、そうした会社の一部には、オフィスの場所も、肩書きも、気にしないという例が紹介される。すべてを自前でやるという発想はそれらの企業にはない。サプライヤーや合併相手を対等に扱い、多様性・多元性を受け入れ、現地や現場に任せるべきものは任せ、それでいて会社全体として成長に貪欲である。

中央集権的な意思決定を行う企業と分散型の企業とでは、どちらが良いのかというのは一般化できないものの、多様性に富むマーケットに挑み、多様な人材を活用するようなビジネスでは、分散型の企業の方が有利であろう。現在、消費マーケットとしても魅力を高める新興国の多くは、国や地域としてみると、北米や欧州が持つ多様性以上に多様性に富むのではないか。それは、文化や民族という違いもあれば、貧富や社会制度という違いも含む。
さらに、グローバル企業の多くは、同時に中南米、アジア、ロシア、アフリカなどの異なる地域を攻めなければならない。そのような時代では、多様性に対応した組織にせざるを得ないだろう。

新興国発 超優良企業

新興国発 超優良企業

  • 作者: ハルロド・L・サーキン,ジェームズ・W・ヘマリング,アリンダム・K・バッタチャヤ,水越豊,中山宥
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/10/07
  • メディア: 単行本
  • 購入: 3人 クリック: 37回
  • この商品を含むブログ (6件) を見る



【編集後記】僕が昨年12月までいた会社を思い出させる話でした。その会社は、米国資本なので、「既存勢力」なのですが、同業他社の中ではフラットの意思決定で知られていました。
日本にも相応の権限があって、事業の成長から管理まで、かなり自由に意見が言え、そして責任をもって行動できました。その自由度を、日本というマーケットに最大限合わせ、外資系でトップの成果を出しただけでなく、逆に日本の経験を他の地域に輸出したのです。
その会社が合併され、一転して中央集権的な経営の傘下に入りました。この合併劇の結末は、時間の経過が短いという点でも、そして僕と会社との間の契約という点でも、語れないのですが、少なくとも両者の違いを目の当たりにした訳です。
僕は、プレッシャーはあるけれど、分散型の組織の方が好きです。このことは、将来逆の立場になることがあるとしたら、活かしたい教訓として心に刻んでいます。




こちらへも遊びに来て下さい。→金融の10番は日本人に任せろ!