書評〜グローバル製造業の未来、コンサル目線の本ではあるが面白い

この数ヶ月の読書やテレビ鑑賞では、日本の製造業がかつての輝きを捨てて、国際競争の中で生き残りをかけている様子を追ってきた。例えば、インドのタタが発売した20万円台の自動車は、新興国の台頭を際立たせる出来事であったし、トヨタショックでは日本企業を代表するトヨタが抱える問題が大きく報道された。

日本の製造業がかつての輝きを「失った」のではなく、「捨てた」と表現したのは、もはや失ったものを悔やむ余裕すらなく、自ら海外に打って出て、海外のサプライチェーンの中に取り込まれていく選択をしている企業が存在するからである。

2009年12月に出された本書は、なぜ欧米ならびに日本の製造業がこれほどまでに低迷し、それに対してどんな戦略をとったらよいか、についてまとめた本である。著者が属するブーズ・アンド・カンパニーコンサルティング会社で、多くの製造業を分析し実際に提言してきたのだろう。僕のような製造業の外にいる人間が現状を俯瞰するためには、もう少しデータやケーススタディが欲しいところだが、顧客企業をサンプルとした視点は勉強になる。

本書を読むと、多くの戦略が描かれているが、その実行は容易ではないことが分かる。日本の製造業は、多くの事業を抱え、各々が収益性よりも売上げやシェアを目指してきたために、不景気などの需要が激減する局面ではあっという間に赤字に陥ってしまう。不採算事業を切り離すには、経営トップの決断が必要であるが、日本ではそれができるリーダーが多くはない。

「ものづくり」神話も却って決断を遅くする。「ものづくり」と平仮名で書くと、あたかもそれは日本の伝統を示しているかのようだ、と本書は鋭く指摘するが、実際はそうした伝統の出番が減ってきているのだ。例えば、パソコンに例を見るように、近年の製品は難しい技術を使って部品を組んだり配線を施すのではなく、あらかじめ作られたモジュールを組合わせる方法にシフトしてきている。日本が得意とする「すり合わせ型」の製造から、台湾や韓国が得意とする「モジュール型」の製造に移ってきている。

こうして見てくると、製造業の企業を評価する際には、1)商品力が優れているのか、2)製造技術が優れているのか、3)すり合わせの技術が依然として競争優位なのか、4)コストマネジメントが優れているのか、の4通りくらいで加点評価するのだろう。これは日本国内ではなくグローバルでの比較である。自社が競争優位でない部分は、積極的にアウトソースするという5)財務戦略は大前提であるが、それについては減点法の評価ポイントとしよう。

1)の代表選手はアップルだろう。3)はこれまでの議論と逆行するが、エネルギープラントや新幹線などはすり合わせ技術が活かせる分野だ。日本の強みをまだ活かせる企業があるということだ。製品というより、システムとして売り込む場合が多いのかもしれない。

昔のように、研究開発費の売上高に占める割合などは意味を成さない可能性が高い。本書も例に挙げていたが、韓国のサムソンは事業集中が進んでいるために、1兆円の投資を限られた部門に集中することができる。対する東芝は、ROEが低いので1兆円も投資できない上に、サムソン以上に数多い事業部門に投資を分けないといけない。

機関投資家が行う資産運用では、まだまだ国別で企業を比較する方法が主流だが、製造業の動きを見ていると、少なくとも企業の実力は国境をまたいで評価する方がよさそうだ。いずれ、国別のベンチマークが意味を失っていくときに、その評価方法はそのままグローバルでも生きるだろう。、

〈ビジネスの未来2〉 グローバル製造業の未来

〈ビジネスの未来2〉 グローバル製造業の未来




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