MSCI KOKUSAI投資はざっくり感がちょうどいい

僕は、株式投資を考えるときに、必ずと言って良いほど外国株投資を組み合わせます。

それは、日本の経済は良くて低成長と思われるからと、自分の仕事(給料)は日本の経済に少なからずリンクするので、分散投資の観点では他国の経済成長からの利益を取りたいからです。

もっとも為替リスクも同時に負うことになります。為替の予測は難しいですが、外国株式でリスクを取る分、外債や通貨投資はやらなくてもいいかなという考えです。まだ、現役世代なので、まとまった配当金よりも再投資することの方が大事ですし・・・。

あまたある外国の中でも注目する国はあるのですが、一国に絞るのはリスクがあるので、基本はMSCI KOKUSAIやMSCIエマージングなどのインデックス投資です。KOKUSAIは、先進国をまとめたインデックスなので、「成長率は低いのではないか」という懸念やリスクはあります。欧州の財政問題もいまだに不透明ですし、米国の財政問題も気になります。米国の(量的)金融緩和が、再びバブルを呼ぶとの意見も多数聞かれます。それらを覚悟しての長期投資ですね。

最近は、低価格(=信託報酬が安い)の投資信託(投信)やETFが販売されてきて、選択肢もずいぶん増えました。ここからは、標題のとおり、MSCI KOKUSAIに絞って話をしてみたいと思います。

東証に上場している)MSCI KOKUSAI ETFは、取引所で直接売買できるのが魅力です。投信だと、申込み日翌日の基準価額による売買になるので、投資判断をしてから約2日間(正確には時差があるので約1日間)は、投信の価格が上下に振れても何もすることができません。このことは、僕が「ざっくり感」と思う理由の1つです。

ではETFは、より良い運用手段なのでしょうか?ここ数ヶ月、MSCI KOKUSAI ETFを取引して感じたこと、そして同時にいろいろ調べたことをまとめてみます。

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東証で売買できるMSCI KOKUSAIは、日興アセットの1680(純資産約32億円)と三菱UFJの1550(純資産約22億円)があります。(4桁の数値は証券コード)この2つの中身の違いについては、「KOKUSAIに潜む国債のリスク」で書かせて頂きました。

純資産残高が示すように、取引量でも日興アセットの1680の方が活況です。1550は、なかなか約定できない上に、値段も1680よりプレミアムで取引されているようです。日本ではマーケット・メイカーは存在しませんが、証券会社が価格を作っているような印象を受けます。しかし、成行で入ってくる個人を待っているようで、1680よりも価格の動きがない印象です。

そもそも、外国株インデックスのMSCI KOKUSAIを、日本の取引時間中に、リアルタイムで取引するというのは何を意味するのでしょうか?厳密に言うと、MSCI KOKUSAIには、オーストラリアと香港が含まれていて、リアルタイムで価格が変動します。しかし、その比率は11月末時点で6%にも達しません。過半は米国株で、日本の取引時間中は眠っています。

ちなみにリアルタイム株価は、Bloombergで利用できるようです。コードはMXKO:INDです。ところが、個人投資家が利用できるサイトではリアルタイムに動いてくれませんでした。プロ向けの専用端末は1か月に100万円近くも費用がかかりますから、情報力の差を感じます。もっとも、全体の6%にも満たないオーストラリアと香港の株価を反映させても、KOKUSAIインデックスはほとんど動かない可能性が大きいのですが・・・。

為替も考えてみないといけません。為替市場は24時間動いていますから、刻々とインデックスの時価も変わるはずです。しかし、問題は為替を見ながらKOKUSAIインデックスの取引をする人がどれくらいいるか、です。

機関投資家(プロ)のうち、年金資産などの長期運用を行う場合は、外貨建資産を時価評価する時点が1日の中で決まっています。インデックスで運用する投資家の場合、その時点から離れて取引をするというのは、あまり考えられません。理屈の上では、円高になるとKOKUSAIは安くなるはずですが、そのように行動する投資家が少なければ、日本の時間でKOKUSAI ETFの価格が動くというのは、純粋に需給だけの要因になってしまいます。では、ETFの価格形成には、何か特徴があるのでしょうか?

面白い論文を見つけました。岩井浩一さんという金融庁の金融研究センターの研究官を務めている方が、ETF全般の価格形成について、日中の取引データを使って、かなり詳しく見ています。(マーケット・マイクロストラクチャーと呼ばれる研究領域です。)

その論文によると、ETF(国内資産のものも含みます)の価格は若干プレミアム(ETFがインデックスよりも高い)で取引されているそうです。問題は、日本の場合、リアルタイムでETFの価値を知る手段が一般に公開されていなくて、裁定取引が行える取引業者や機関投資家に利益が偏っているという可能性でした。

このことが即座にETFの問題であると言うつもりはありません。個人が裁定取引を行うことは一般に極めて困難ですし、裁定取引参加者にはある種の相場形成をしてもらう必要もあるからです。しかし、そうした参加者には、価格形成義務がないのが、日本の制度の不備なのかもしれません。

ETFという商品マーケットでは、似たような商品が多いため、知名度を上げたファンドが多くの資産を集める一方で、他のファンドは残高が小さいままであるという話を頻繁に聞きます。残高や取引量が小さいファンドでは、価格形成が十分では可能性があり、投資家がさらに離れるという現象が起きていても不思議ではありません。

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まとめると、MSCI KOKUSAIのETFは、1)今のところ資産残高が小さく、取引参加者も少ないこと、2)ETF一般に共通する裁定取引情報が一般に利用できないため、価格に歪みが生じやすいこと、3)日中の時価変動を知る手段が一般の個人投資家には存在しないこと、などから取引価格に「ざっくり感」が生じてしまっても仕方がない状況です。

だからと言って、KOKUSAIのETFが良くないという訳ではありません。よほどの大金でなければ、約定することはできますし、売買の値段が確定するという投信にはない安心感があります。投信にも「ざっくり感」があるので、ETFの「ざっくり感」も良い勝負だということでしょう。

個人的には、「KOKUSAIに潜む国債のリスク」で書いたように、国債のリスクを取っていない三菱UFJの1550に頑張って欲しいです。中田たろうさんという個人投資家さんのブログによると、1550が保有する投資信託は、同社がeMAXISというシリーズで出している投信と同じそうです。eMAXIS先進国株式(MSCI KOKUSAIインデックス)は、残高が39億円くらいで、1550の22億円と合わせて61億円ですから、まずまずの現物株式運用ができると期待します。

将来起こらないことを祈りますが、1550の上場廃止リスクを考える方は、中身が同じと思われるeMAXIS投信の方が良いのでしょうね。投信は、投資家からの申込みがあってからファンドに組み入れる現物株を買いに行くので、現物株の購入時点においてインデックスとの乖離が生じにくいのです。ただし、既存の投資家との公平性から、購入基準価額が決まるのが、翌営業日の夕方になるというのは、最初にお伝えしたとおりです。



【編集後記】今回は、専門的な用語をそのまま使わせて頂きました。ETFについての説明は、東証のサイトなどをご覧ください。投信とETFの違いについては、たくさんの方が記事にしていて、「投信 ETF 違い」と検索すると整理した情報が得られます。投資は、ご自身の責任において行ってください。

「ざっくり」という言葉で思い浮かぶのは、ざっくり戦士ですね。




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