書評〜地価融解

2009年1月に出された日経の編集委員さんによって書かれた本です。「不動産の大きな流れを伝えることで、日本経済の底流での構造変化とその問題点を浮き彫りにしようと試みた」とあるように、戦後の不動産、土地価格、金融の動きをおさらいするのに、十分な情報を提供してくれました。

地価は、文字通り土地(本書の文脈では、建物の価値も含む)の「値段」ですから、金融の動きと切り離すことはできません。サブプライム・ローン問題がその典型ですが、日本のバブル崩壊を象徴付けた銀行の不良債権問題や、外資ファンドによる再生、REIT不動産投資信託)の登場など、金融の仕組みなしには語れないのが地価の動きです。

読後感は、良くも悪くも「不動産金融史」でした。著者の表現が、ときおり「・・・は不動産関係者を震え上がらせた」と要らぬ演出を交えているところが興ざめでしたが、過去の経緯を網羅している本だと思います。

「構造変化」については、日本の土地取引の慣行が、グローバルかつ証券化時代に必須の「収益還元法」に基づいた価格取引に変わったことが指摘されています。さして、昨今の日本企業の海外移転少子高齢化が、長期的な土地需要を下げるであろうという指摘もあります。

土地や建物ごとに個性の強い不動産は、ますます収益性の高い土地・建物とそうでないものとの二極化が進むのでしょう。不動産を個別に取引する場合は、そうした事情に対応できるから良いとしても、個人や年金がファンドを通じて投資する場合はどうでしょうか?

地価が下がると、「そろそろ投資に良いですよ」という話が出そうですが、その土地が稼ぐ収益以上に地価は上がらないと考えるのが、リスクに見合った投資の考え方だと思います。例えば、東京の一等商業地の価格だけを見せられて、上がっているから買うという投資は、極めて危険な投資だと思われます。

個人でも購入できるREITでは、保有する物件すべてを理解すること、すなわち適正な価格を割り出すのが困難なので、今のままでは難しいのではないかというのが僕の考えです。

さらに本書を読むと、REITの資金繰りの仕組みや、銀行からの資金借り換えが難しいという状態が紹介されていますから、単なる投資信託とは異なることに気をつけないといけません。(証券投資信託は、資金の借り入れが禁止されています。)

株式のようにインデックスや業種分類、さらにはベータ(過去の市場平均との連動性)といった指標も存在しないREITは、せいぜい商業不動産か住宅か、どの地域中心の物件なのか、管理会社はどこか、などのざっくりした区分けでしか、考えることができないのが難点です。

REIT選びは、アクティブ投資信託選びと同じがそれ以上に難しいと思います。なぜなら、REITのマネージャーの腕を知る方法はないし、これまで右肩上がりの不動産価格を見せられるような営業しかしてこなかったREITを、どう評価したらよいかという問題があると思います。

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一方で、中国人などの海外の投資家が日本の不動産を買っているという話を聞きます。日本の投資家が追随して値上がり益を得られれば良いのでしょうが、外国人投資家はすでにお金を持っていて、ファンドなどに頼らずに欲しいと思った物件を個別に買っていくようです。日本人個人で買える人はそういないでしょうから、投資家向けにファンドを作る場合は、よほど上手くファンドを組成しないと、高値をつかまされてしまうおそれもあります。

つまり、日本人が外国人に先がけて、日本の都市の価値や、観光資源を見究める必要がある訳です。そんな不動産ファンドがあって、投資目標や投資対象が明確化されているのなら、ブラジルレアル債に投資をするよりも日本のためになるような気がするなあ・・・。

地価融解―不動産ファイナンスの光と影

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