書評〜ピーターの法則、創造的無能のすすめ

仕事が認められ、昇進を重ねていくと、どこかで自分の能力の限界に達する。

多くの人は、自分の無力さに気付かず、自分のできる範囲のことをやる。あるいは、組織の力学や成功体験に従って行動する。

ピーターの法則」とは、「すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能レベルに到達する」、「やがて、あらゆるポストは、職責を果たせない無能な人間によって占められる」という理屈です。

身も蓋もない話ですが、的を得ていると思います。著者、ローレンス・J・ピーターさんは教育学者で、この本が書かれたのが1969年です。今の時代でも共感を得るということは、普遍の法則と言っても良いでしょう。

昇進だけを目指す生き方は、この法則によらずとも不幸であると思いますが、この話を聞くと、さらにその思いを強くします。では、どうしたら、良いのでしょうか?ピーターさんは、「創造的無能」といって、わざと仕事ができないふりをして、有能であるギリギリのエリアに留まるのが得策であると言います。そうすることで、マクロ的には、有能な人間が仕事をする社会となり、人類の進化にも役立つ・・・と。

今の時代は、価値観が多様化し、昇進がすべてでもないし、仕事がすべてでもない、ましてや経済的な成功や社会的な成功がすべてではない、と考える人が増えているように思います。「豊かさ」の価値観が多様化しているのです。行き過ぎた「資本至上主義」によって、気が付いた人も多くいるかもしれません。

つまり、本書が警告するような「みんなが無能」という状態には、なかなか到達しないでしょう。著者も決して不安を煽っている訳ではなく、むしろ皮肉をユーモアに換えて楽しむような、のんびりとした様子をうかがわせましたが、1970年代と比べて、社会はいくらかまともな方向に向かっていると評すべきなのでしょうか。

創造的無能」によって、自分のコンフォート・ゾーンに身を置くことは一見得策のように思えますが、本書が予測できなかったことが、今は起きていると思います。新技術や新興国の台頭です。いつしか、自分の仕事が機械化(IT化)されてしまう、海外の人材にとって変わられてしまう、というのは冗談ではない話でしょう。

創造的無能」を決め込むのも、絶えず勉強や技術習得を行う「チャレンジを続ける」のも、おのおのの人の生き方であり、選択する以上は結果責任を負う世の中になったということです。厳しいお話ですが、現実なのでしょうね。

一番不幸なのは、知らないうちに無能になっていたり、いずれ無能になることを知らずにチャレンジし続けることなのかもしれません。まだチャレンジもしないうちから無能になる怖れを抱く必要はないのですが、有能な人ほど高みに達するスピードが速いので、今の自分を評価し、必要に応じて次を考えていくことが大事なのかもしれませんね。

ピーターの法則 創造的無能のすすめ

ピーターの法則 創造的無能のすすめ




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