産業の化学化

今週のエコノミスト(2010年11月30日号)は、特集で「日本の化学力」を取り上げています。

先日、2人の日本人がノーベル化学賞を受賞したことは記憶に新しい。2000年代に入って6人が受賞したことになる。

青色LEDの製造技術を開発した中村修二氏も化学の世界の人だ。

化学会社という切り口で見ると、日本の化学会社が国際的に高シェアを握っている分野が多いそうだ。どれくらい高シェアかと言うと、80%〜100%と、非常に高いのである。

しかし世界的にみると、日本の化学会社の規模は小さい。もっとも売上の高い三菱ケミカルでもBASFの3分の1以下である。

しかしこのことは、日本の会社は独自色が強く、競争力があると言うこともできる。課題を挙げれば、高シェアが維持できるかどうか、産業として競争力を高めることができるか、という点だそうだ。競争力は、現在多くの日本企業が強みとしているハイエンド市場と、今後の伸びが期待されるローエンド市場で試される。

産業の化学化というのは、地球温暖化防止の気運に乗って、燃料電池太陽光発電などの需要が高まる結果、化学への依存度が高くなることを表現している。次世代のエネルギーや省エネルギーは、化学的な仕組みによるところが大きいからだ。

識者のコメントには、「大きくなることが良いとは限らない」とあって、それには僕も同意見だ。問題は企業規模なのではなくって、今ある優位性を企業として、そして連携や提携を通じて産業として、どう活かし続けることができるかどうかだ。

冒頭のノーベル賞に象徴されるように基礎研究の定評が高い日本であるが、化学界では基礎研究で発見した物質が製品化されるまでに時間がかかるものが多いそうだ。基礎研究の積み重ねの結果得られた高い技術という「シーズ」が時代の「ニーズ」と直結してはじめて製品化される構図で、ニーズがシーズを育む、あるいは探し当てるのではないそうだ。

競争力の維持は研究開発の成果と裏表の関係にある。一般論だが、研究に効率が優先されると、永年にわたる成果は期待できない恐れがあるので注意が必要だ。つまり、日本の化学力が高いのは、基礎研究に力を入れてきた結果と言えなくもないだろう。

日本の化学会社が自動車や電機のようにならないためには、事業戦略と研究開発の両面で、経営のかじ取りが極めて重要であるということだ。




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